何も誇れぬ人生の記録

『ぼくは何も誇れないのが誇りだな』沼田真佑、影裏より

石井遊佳 百年泥
(はじめ)
題名の由来が書き出しのいち文で語られる。洪水の場面から。家でニュースと窓の外の様子を見ながらここにいる経緯を回想。主人公は男運がなく、流れされてチェンナイの日本語教師となった。
(おわり)
最後は感傷、盛り上がりの裏切り。5巡目男なる人物に分けの分からないインド人がわけの分からないインチキそうな思い出を語る。百年泥の混沌から前世や思い出が湧いてくる。髪のような人物が後始末をしていて、日本語教師である私との言葉についてのシュールな会話で終わる。

戌井昭人 すっぽん心中
(はじめ)
首が回らない男が朝にトイレで用を足す場面から。このシーンの流れで若い女に追突された事故の回想へ。この男、ひたすらエロい妄想ばかりのエロオヤジ、そして彼を取り巻くものはどれも彼なんてどうでもよく思っていて無礼ですらある。次の場面で女のマネージャーが慇懃無礼な態度で喫茶店で謝罪する。
(おわり)
モモが田野と一緒にとってきたスッポンを押し売りするやり取り。店には取り合って貰えず、激怒するも、食堂に入ればあっけらかんとしている。緊張したのか田野はトイレに立っても屁しか出ず。モモのでまかせの会話の相手をし、5000円かして上の駅で別れる。好意をいだき始めたモモとすれ違って、マネージャーからもっと金をせびるかと下卑たことを考えて終わる。

小手鞠るい その愛の向こう側
(はじめ)
再起をかけた男が荻窪駅近くの喫茶店に赴く。そこはなくなった彼女との思い出の場所で、やり直すにはそこしかないと思った。まるでエンタメ小説の宣言のように、最初の段落でフルネームで登場人物が紹介される。
(おわり)
茶店で出会った優奈という霊能者の女との会話。亡くなった彼女みどりの例が見えるのか?主人公の作家になるという夢を死しても応援していた彼女の取り計らいで、雛子の謎の死という事件に行き着く。彼はこれを書く決心を緑になる伝える。

川口晴 月の夜に洪水が
(はじめ)
主人公の風俗嬢は屋上が好きで屋上でネオンと風にさらされる場面から始まる。屋上が気に入ったという理由で簡単に風俗嬢になったこと、そこから同級生に店で出くわした話。彼と一緒に屋上に行き、目を閉じたらいいよと、目を閉じてみる。いつでも死ねると惹きつけられる。それから、小学校の思い出へ。メイシャと呼ばれる好きな男子の描写と、晶という自分の名前の印象。そして学習塾の帰り二人の出会いの場面。
(おわり)
月の夜に洪水が。とは主人公の嬉し涙のことでした。店に来店する曽根君。わだかまりがあったものの、マッサージのあと二人で屋上に行く。彼らにはメイシャの死や香織との不和などのトラウマがあったが、曽根くんはそれでもいいと主人公に告白する。君だけじゃなきゃだめみたいだ、と言われ主人公が涙ながらに受け入れる。そしてしゃがみこんで泣く彼女の涙にそっと触れて幕。

島田荘司 都市のトパーズ
(はじめ)
自分が生きてきた世の中の欺瞞に着いての長い長い切り口上が続く。首都高エンジニアリングとは何たるものか。
(おわり)
銃撃の場面。主人公はトパーズと呼ぶ獣とともにビルに立てこもっている。トパーズが動き、弾丸を一身に浴びて落ちていく。そして彼も覚悟を決める。私が目指したものは何だったのか、これではないはずだ、という思いを抱いてトパーズの上に自身も落ちてゆくことを望む。

リービ英雄 ヘンリーたけしレウィツキーの夏の紀行
(はじめ)
中国の空港にて日本語を扱える外国人の主人公が航空便を待っている。窓を見ているうちに不安は募る。その予感は的中し、到着したのは20人ほどが乗れるプロペラ機。やはり電車で行こいうかと迷い、駅での大変なやり取りを想像する。そうしているうちにプロペラ気に向けてすでにあるき出している。
(おわり)
中国で井戸を覗く場面。二人の労働者に井戸の中の灰色の水を見せてもらい、あったと確信して去る。そしてバスターミナルへ、路地へ。路地で解体現場をみて、それから子どもたちにお前の名前は?ときかれる。何か象徴的な問い詰め方で、主人公は答えられない。おい、名を名乗れ、という呼びかけで終わる。外国籍のひとのアイデンティティがテーマなのかもしれない。