施設の日陰にあるベンチに老人が腰かけていた。
「今日は曇ってるね」
そこには誰もいない。昼寝の時間だった。彼はいつも抜け出してここにきていた。
「雨が降ったら怖いかい?」
彼の目線の先に紫の小さなコスモスの花があった。老人は悪戯っぽく笑いかける。
「怖いことはないさ。俺だって怖くない。雷だってここなら心配いらないよ」
潰れた空き缶がベンチの下に転がっていた。老人は花をよけるように慎重に拾い上げて
「スプライトが好きなのかい?今度一生に飲もう」
急に光が差し込んできた。笑い返すように彼も笑った。