何も誇れぬ人生の記録

『ぼくは何も誇れないのが誇りだな』沼田真佑、影裏より

老いらくの恋

施設の日陰にあるベンチに老人が腰かけていた。

「今日は曇ってるね」

そこには誰もいない。昼寝の時間だった。彼はいつも抜け出してここにきていた。

「雨が降ったら怖いかい?」

彼の目線の先に紫の小さなコスモスの花があった。老人は悪戯っぽく笑いかける。

「怖いことはないさ。俺だって怖くない。雷だってここなら心配いらないよ」

潰れた空き缶がベンチの下に転がっていた。老人は花をよけるように慎重に拾い上げて

「スプライトが好きなのかい?今度一生に飲もう」

急に光が差し込んできた。笑い返すように彼も笑った。