何も誇れぬ人生の記録

『ぼくは何も誇れないのが誇りだな』沼田真佑、影裏より

柴崎友香 きょうのできごと

『レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー』

 光で、目が覚めた。

 右側から白い光が射してて、中沢が窓を開けて少し身を乗り出すのが黒い影で見えた。

(あらすじ)

小説は力まずに自分の頭の中の言葉を書けばいいのではないか? 個人日記に気持ちを書いていくような文体。この著者の会話の自然さは完成されていて、彼女自身その長所をわかっているかのように会話文を邪魔しない短くてさりげない地の文がある。友人宅での引っ越し祝い飲み会の帰りの社内での会話。主人公と男友達とのさりげない会話が展開されていく。夜と光の描写が場面を引き立てている。

『途中で』

 僕は自転車に乗って、夜の道を走ってた。道の両側には僕が昨日から住んでる家と似たような古い家が並び、低い屋根のすぐ上に星が見えた。さっきまで冷たいと思ってた風が、慣れてきたせいか気持ちよくなってきた。自転車のペダルの重みと同じくらいに。ぼくは、しばらく自転車に乗っていたくなって、行き先を鴨川を渡ってまだ向こうにある酒屋に変更した。空には星が、数えられるくらいだけど、たくさん見えた。

(あらすじ)

僕は昨日引っ越してきたばかりの夜中の京都を自転車で飛ばしている。鴨川を渡って向こうの酒屋に行こう。その1時間前、僕は引っ越したばかりの家で、車で帰る中沢たちを見送って、3人の友人と一緒にいた。テレビの前にいる三人のとこに酔った西山が降りてきた。彼の頭は酷い髪型で、それは帰っていった女の子の一人が寄った勢いでめちゃくちゃに散髪したからだった。風呂場で確認したあと、テレビ前のもう一人と髪を比べて、なんでイケメンのこいつはちゃんと切ってもらってるねん、と不機嫌になった。なんとかなだめられて、西山は台所に行ったが、ふすまに三角形の穴を開けたり、接着剤でコップをくっつけたり大変。電話せえ、というので中沢に電話すると、よこから、彼女に振られたことがつらいんやない、もっと別にあるんや、おれだってと叫ぶ。そして僕に食べ物を買ってこいといい、僕は買いに出た。これが冒頭で、それから僕は橋の上で山田に出会う。軽妙な会話。帰りに僕は橋のそばで転ぶ。そして鴨川の合流地点に降りる。その夜の中で、ある女友達と電話をする。印象に残る、ちょっと期待する気持ちをくすぐられる会話。そして西山から蟹食いに行くぞと電話。朝方、彼らは車で出発する。

三木卓 ボディ・シャンプー

午前八時になると店主が来た。その姿を見た高木孝彦は思わず目を丸くした。

(あらすじ)

孝彦はウキウキする気持ちでコンビニの深夜バイトからアパート二階の自室に戻る。そこにはいま先輩が居候していて、その夜は女とそこで行為をするというのだ。ふすまの先を覗くと確かに女がいる。少し鼻が上向いた孝彦好みの女で、年上の人妻だ。先輩の朝食を用意すると、女も遅れて起き出してくる。恥じらいながら、孝彦が買ってきたボディーシャンプーを受け取ってシャワーへ行く。それから3人の共同生活がしばらく続く。バイトから帰ると、孝彦の机やらがダイニングに出されていて、彼らとの微妙な距離感を保ったままの共同生活となる。あるときとうとう孝彦の覗きに我慢がならなくなり、孝彦は女がもと居た部屋に追い出される。不意に大家が家賃の催促にきて、先輩が家賃の支払いをやめたことを知る。そのころ先輩からも連絡があって自分は遠くに行くしもう別れるから女はお前にやるという。意を決して孝彦は女に会いに飛んでいく。先輩の言葉を伝えると女はなくが、一回ならいいわよという。次の朝、孝彦は結婚してくれと懇願するが、女はそれをあしらって出ていく。