何も誇れぬ人生の記録

『ぼくは何も誇れないのが誇りだな』沼田真佑、影裏より

 吸いさしの煙が名残惜しく漂う暗がりで、細い影が頻りに骨ばった右手を上下させている。その行為の振動で、歪な丸テーブルは小刻みに揺れていた。周囲に物音ひとつないことに安心しきって、動きは大胆になっていく。端の皮が捲れた口元からよだれが垂れて、黒ずんだ木目を体液で汚していることにも気づかない。

 ロウソクの火がゆらめいて、快感に惚けた目の玉を赤黒く炙っている。冷気が天井の暗がりから落ちてきて、首筋に怪しげな息を吹きかける。うるさいほどにそこかしこから声が聞こえてくる。女たちの声だ。若い娘の笑い声やしわがれた喚きに混じって、官能に直接響く淡い色の吐息が耳元をかすめる。影は上体を震わせ、歓喜の唸り声を仄白く漏らした。

 

イメージの連鎖が文章を生成する。そして、文章を守るために消していく。