何も誇れぬ人生の記録

『ぼくは何も誇れないのが誇りだな』沼田真佑、影裏より

平野啓一郎の読書ノート

 小説を主語述語修飾語独立語接続語といった基礎的な文法レベルまで解体して分析する読み方が面白い。基本的に作品は主語と述語の連続であり、その述語が状態の説明か動作の描写であるかで、主語と述語の間の方向性が反対になる。例えば、ハツは、、、、とくればその主語に対する述語が気になるが、それが最終的にどうしてにな川を蹴りたいと思った、となるのか、この間にある無限の可能性を持つギャップを考えることが作品の創造につながる。また形式的には修飾語の使い方や文末の処理や、登場人物と地の文のナレーターと作者の関係性のバランスがその作品の文体を決める。

 主語たちが出会って、どのような関係性の変化を経て、最終的にどんな述語に行き着くのかという観点からの作品分析はとてもロマンチックである。